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【感想・考察】『オール・アメリカン・ボーイズ』中高生はもちろん、大人も読むべき本!

 ブラック・ライブズ・マター(BLM)という言葉をご存じでしょうか?

 

アメリカで、白人警察官が無抵抗の黒人男性へ発砲するなどして死亡・負傷する事件が立て続けに起こったことで始まった人種差別抗議運動です。

 

 

 

『オール・アメリカン・ボーイズ』とは

これは、BLMを契機に、黒人作家のジェイソン・レノルズと、白人作家のブレイダン・カーリーが黒人少年・白人少年の立場で書いたヤングアダルト(中高生及び若者)向けの小説です。

 

アメリカではBLMがかなり盛り上がっていて、

「ニューヨークタイムズ・ベストセラー」「ウォルター・ディーン・マイヤーズ賞」「アメリア・エリザベス・ウォールデン賞」と多数の賞を受賞した本です。

(正直私がピンとくるのは、ニューヨークタイムズ・ベストセラー」くらいですが…

 

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あらすじ

黒人少年(高校生)のラシャドが友人宅のパーティーへ行くために、お菓子を買いに行く。そこは万引きが多発している店舗で、白人警察官のポールが居合わせた。万引きは行っていないが、たまたまの現象が重なり、ポールはラシャドが万引きをしたと勘違いする。無抵抗の黒人少年に対して白人警察官は激しい暴力で制圧する。そして大けがを負った黒人少年は病院へ搬送されて、様々な経緯があった後に学校・地域・社会を巻き込んだデモに発展する。

 

簡単に書くとこんなあらすじです。ヤングアダルト向けということもあり、平易な文章で書かれていて読みやすいので一度読んでみてください。

 

【感想・考察①】どこの国の学生も変わらない

まずいえるのは、学校が終わってパーティを楽しみにする学生。バスケットボールに熱中する学生。恋愛で盛り上がる学生。飲酒をする学生。などの日常生活の様子が出てきます。

全然日本と変わらないじゃん!と思いました。

そして、日本も人種差別があるのは例外ではありませんよね。

日本は外国人が生活環境にあまりいないということもあり、外国人を見ると好奇のまなざしを向けがちです。それも厳密にいえば人種差別に当たるのではないかと思います。

 

【感想・考察②】アメリカ人らしさとは一体

アメリカと言えば、自由な国、経済豊かな国。そして、戦争の国です。

自由な反面、自由を保つために徹底して「国を守る」という思想が根底にあります。

そのため、アメリカに対して脅威と分かれば戦争という選択肢をとることも…。

今回の、黒人少年ラシャドも学生をしながら、ROTC(予備役将校訓練)という訓練を受けていました。

そして、途中に出てくる白人少年クインも父親をイラク戦争で父親を亡くしています。

その父親が地元では国を守った英雄としてみんなから尊敬されています。

両者とも国のために尽くす「アメリカらしさ」「アメリカの誇り」に悩んでいたのです。

タイトルの、『オール・アメリカン・ボーイズ』の意味は、直訳するとすべてのアメリカ人少年となりますが、実際には「アメリカ人らしさ」という意味も含まれています。

 

【感想・考察③】警察官も自分の職務を全うしただけ?

もともと私も似たような職業だったのでわかるのですが、法律上は相手が危害を加えそうな場合などの第三者が見て合理的と判断されるような状況で発砲などが許されます。

今回の『オール・アメリカン・ボーイズ』では過度な暴力によって黒人少年のラシャド制圧しました。読みながら本当にひどい行為だなと思いました。

しかし、一方で、実際のそこにいた状況を考えると、正しく法律を順守して拘束することができるか自信はありません。

もちろん今回の場合では全く無実の少年ということなので、逮捕以前の話ですが。

 

 

まとめ(少しだけネタバレ)

当事者の黒人少年ラシャドと白人警察官のポールのほか、両者の家族・友人などが出てきます。どちらかというと周辺の人間の心境を書いているほうが比重が多いです。

今アメリカでは当事者だけではなく、周辺の人、これまで人種差別の抗議に積極的ではなかった人たちもBLMに参加するようになっています。

 

日本ではあまり人種差別について話す機会は少ないですが、これからグローバル化は進む一方だと思います。若い世代はもちろん、大人もこの本を読んでBLMへの意識を持ってもらえたらうれしいなと思います。