【書評】澁谷知美『日本の包茎』|いつから「恥」になったのか
ー包茎は恥ずかしいー
いつからそんな風潮が生まれたのだろう。
そんな疑問を澁谷知美さんという社会学者でジェンダー問題の研究者が200年という壮大な期間にわたる文献を遡り解き明かした本です。
あらすじ
仮性包茎は医学上、病気ではなく、手術も不要である。日本人男性の半数以上が仮性包茎とされている。多数派であるのに多くの男性がこれを恥じ、秘密にしようとするのはなぜか。そのままでは女性に嫌われると一部の美容外科医は言い募り、男性による嘲弄の対象ともなってきた。仮性包茎を恥じる感覚は、どのようにして形成されたのか。
江戸後期から現代まで、医学書から性の指南書、週刊誌まで、膨大な文献を読み解き、仮性包茎をめぐる感覚の二〇〇年史を描き出す。歴史社会学者による本邦初の書!(筑摩書房公式HPより)
著者について
東京大学大学院教育学研究科で教育社会学を専攻。現在、東京経済大学全学共通教育センター准教授。博士(教育学・東京大学)。ジェンダー及び男性のセクシュアリティの歴史を研究している。
書評
包茎に劣等感を持つのは日本特有の文化だそうです。海外では割礼を行っている国もありますが、基本的には自然体で生きている国が多いのだとか。有名な例でいうと、ダビデ像なんかも完全に包茎で堂々としていますよね。
ではなぜ、日本ではこんなに包茎コンプレックスが生まれたのでしょう?
江戸時代には包茎が認識されていた
江戸時代の医学書、春本や医学書で包茎についての言及がされており、その頃には約半々、若しくはやや包茎を揶揄するような言及がされているそうです。
江戸時代から包茎が書籍というメディアを通じて一般的にある程度認知されていたことがわかります。
比較対象の変化
2度の戦争を経験し、最終的に敗戦国となった日本はGHQ統制下におかれます。
それから外国人との交流も生まれ始め、日本人男性は米国男性と自身の性器を比較し始めます。敗戦国となり、米軍コンプレックスにも陥っていくという流れです。
メディアと広告
その後、経済成長を遂げて美容整形外科とメディアのタイアップ記事などが多数出るようになり包茎手術ビジネスが形成されていきます。
「包茎だと女性にもてない」「デキるビジネスマンなのに包茎では話にならない」などというコンプレックスを植え付けていくことで出版社と美容整形外科はともに大規模な包茎ビジネスを生み出していくのです。
現在の包茎コンプレックス
現在は広告にも規制がかかったことである程度正確な情報に基づいて手術を判断することができていると思います。
しかし、一度植え付けられて認識はなかなか消えず、現在でも男同士ではお互いに気にしたり、隠しあったりという場面は日常茶飯事です。
正しい情報を一人一人が身に着けていくことで、包茎、人種問題、他様々な問題すらもメディアに踊らされずに選択できるのではないかと思うのでした。
紹介した書籍
包茎というマジョリティをマイノリティに仕立て上げてきたメディア。
— ハチ公@読書垢 (@airfoce_y) 2021年5月20日
時代と共に広告規制が入ったりで変化してきたけど今でもコンプレックスを抱えてる人は多いのではなかろうか。 pic.twitter.com/zducY2iUrZ