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中村文則「掏摸」あらすじ・ネタバレ|手癖の悪い人々は実際にもいる!?スリで生きる人々を描いた小説

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(c)中村文則/「掏摸」

中村文則の小説といえば「教団X」などがかなり有名で一度は読んだことがあるという人も少なくないと思います。しかし、「教団X」はなんといっても文庫で608ページからなる長編小説です。いきなり「教団X」から読むのはハードルが高すぎるということで、「掏摸」が中村文則の入門小説としては最適といえます。

 

 

「掏摸」は2010年に大江健三郎賞を受賞し、世界各国でも翻訳出版され、「ウォール・ストリート・ジャーナル」2012年ベスト10小説にも選出されるほどの人気ぶりでした。

 

というわけで、今回は「掏摸」の簡単なあらすじをネタバレややありでご紹介したいと思います。

 

 

「掏摸」【ネタバレあり】あらすじ

掏摸を生業にして生きる西村

手癖の悪い西村という凄腕のスリ師が主人公です。

元々犯罪組織に所属していて、離脱後一人で街中で一番金を持っていそうな人や悪人から掏摸を行い、日銭や大金をスリして生きています。

中指と人差し指、若しくは薬指を使って華麗にポケットやカバンの中、時にはジャケットの裏地に縫い付けられたポケットからもスリを行います。

意識してスリを行っているときもあれば、無意識の間にスリを働いていることもあるので一種の病気ともいえるほどの状況です。西村にとっては生きる=スリなのです。

 

シングルマザーとその息子の万引き現場に遭遇

そんなところへシングルマザーが息子にスーパーで万引きを指せているところへ遭遇します。普段他人に興味がない西村は見て知らぬ顔をしようと思っていましたが、万引きGメンに見つかっていることに気付いた西村は、自分の意志に反して親子へ万引きGメンに気付かれていることをそっと告げます。

自身も幼少のころから掏摸をして生きてきた人間として、その息子と自分とを重ね合わせて救いの手を差し伸べたくなったのでしょう。

それから、自宅へと尋ねてくるようになった息子にスリの手口を教えながらも、シングルマザーの彼氏に虐待を受けるのを防ぐために施設に入るように助言します。

 

危険な掏摸の仕事に巻き込まれる

シングルマザーの息子を(西村自身は面倒と思いながらも)可愛がっていると、石川という西村の友人から仕事の依頼を受けます。

木崎というヤクザとも半グレともわからぬ男からの仕事の依頼で、断ると可愛がっている親子が死ぬか、西村自身が死ぬかという2択になります。
そのため、木崎の仕事の依頼を受けるのですが、そこからトラブルへ巻き込まれて行きます。

 

人間の運命は決められているが

木崎は自分自身の力を誇示し、他人を支配することに快感を持っていました。

弱者に対して木崎の意志の通りに人生のレールを選択していくことがたまらないようです。西村も木崎にはめられ、無理難題の仕事の依頼を受けますが、それをこなしていきます。掏摸によって自分自身の人生を切り開いていく。幼い頃からそうしてきたのですから西村にとっては木崎と出会ったことも偶然ではなく必然なのでしょう。

 

 

 読みどころ

中村文則の人生観と重複する内容

あとがきにも書かれていますが、本文中に「塔のようなもの」が後半頻繁に出てきますがそれは中村文則が幼少の頃によく幼いころに見た幻覚かもしれないものを現わしているそうです。

「光が目に入って仕方ないなら、それとは反対へ降りていけばいい」という部分も、中村文則の当時の人生観を反映しているそうです。

 

万引き家族的な要素

万引き家族も血のつながりがない人たちが集まって万引きをして暮らしていて、家族のように暮らしていましたが、この作品も西村とチビっ子のように、スリ師であるからこそつながる縁もあるというように読み取ることができます。

もちろん、「掏摸」のほうが先に出ている作品なので比較の対象ではありませんが、家族という形を考えられる作品ではないでしょうか。

 

 

 

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